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闇へのご案内~すすきの黒服、客引き体験録6

第1話→

闇へのご案内~すすきの黒服、客引き体験録 - ギャングスタが斬る!

 

 またしても前回の更新から大きく間が空いたので同じ事をもう一度書くかも知れないがご了承いただきたい。

 「ビラ隊」にはその後斜里町から来たデザインだかファッションだかの専門学校生の男子二人がバイトとして加わった。ごま団子と八重樫が元々黒服だったのだが店内業務を嫌がってビラ専属となったというのは確か既述だと思うが、おれも店内にいるよりはビラに出ていた方が心安かった。頭のおかしいキャストやヤクザみたいな従業員連中といるのは胸が詰まるような息苦しさがあり、業務の繁忙さやプレッシャー、気を遣わなければならないことは山ほどあり、それらから逃れビラに出るのは解放された自由があった。ビラ隊は学生バイトと一九歳のオナベと店内業務を嫌がってビラ専属になったような黒服である。彼らといるのは実に気楽であった。
「ガールズインマーケット(通称ガルマ)」というJK(風)キャバ(本州で言うセクキャバ)があり、ここのビラ隊が現役のJKであることは既に述べた。このビラ隊がすすきのキャバクラ界隈で最も客を引く一大勢力であった。そりゃ男の黒服と現役JKだったら後者の方について行きたくなるのも当然である。そしてこの中でも最も客を引くエース級のJKがいて、ここではマホと呼ぶこととする。見た目如何にもギャルと言った風体だが、ギャル特有の人の懐にぐいぐいと押し込んで来るような強引さと人懐っこさ、あざとい甘えの接客を織り交ぜて若者からおっさんまで巧みに手玉に取り、店へご案内していた。ここのビラは風説によると時給千五百円で客一人につき何百円かの歩合もつくということだったので、体を売らないJKバイトとしてはかなり稼げているのではなかっただろうか(十八歳未満なので二十二時までの労働であったが)。
 このマホが、我がビラ隊の十六歳の家出少女と仲良くなった。まだ名前が出ていなかったのでリカと呼ぶこととする。同業他店とは言え路上では普通に会話もするし、人によっては仲良くなることもある。ましてやバイト同士で、歳の近い女子同士であれば交流があってもおかしくはない。典型的ギャルと大人びた家出少女という違ったタイプの二人が仲良くなるのはどこぞの百合漫画にでもありそうな感じで微笑ましかった。リカを通じて我々黒服勢ともマホと面識が出来たのだがこれが後に重大な出来事につながることとなるので覚えておいていただきたい。
 ごま団子は一度トんでいるというだけあってメンタルが弱く、ビラ隊の責任者(部長という役職を与えられていたが狸部長のような地位のあるものではなかった)となってからは主に静岡代表からプレッシャーをかけられ続けていたようであった。そのせいか常に集客の具合を気にしていて、定期的におれの携帯に電話がかかってきた。
『お待ちは?』
 マリオネットに待ち時間は出来ているかどうかを訊いているのである。彼にとってはビラで客を入れることのみが仕事であり、案内所や雑誌経由、店にとっては最も重要なリピーター、ご指名客などはどうでも良いのであった。むしろそれらが入ることで待ち時間が出来てしまうとビラで入れづらくなってしまうので、事実上の商売敵なのである。なのでマリオに待ち時間があるときはDiorに、Diorに待ち時間があるときはマリオに優先的に入れるようにビラ隊に指示を出すというリーダーらしいことをやっていた。マリオは手マンの出来るハードキャバでDiorはおっぱいまでのソフトキャバだから、ハードじゃなきゃいやだ、ソフトの方がいいという客も当然いる中での采配は苦労したはずである。
 そういった管理職としての仕事があるからごま団子自身は「客を引く気は無い」などと言っていた。
「このかっこう見ればわかるっしょ」
 坊主頭にギャングスタラッパーのようなヒゲ、当時のヤクザや夜の業界界隈で流行っていたマオカラーのスーツ。そのいかつい風貌が客を引く気は無いという意識の表れだという。他店になめられないように責任者が怖い顔でにらみを効かせる必要があるというのだ。だがこいつは根がいいやつなのでその辺りの人間性は隠し切れずににじみ出ていた。客を引く気はないと言いつつも自らもちょくちょく引いていた。その度に「おれに引かすなよ」などと言っていた。
 なんと言ってもダントツのエースは八重樫であった。こういうのを天賦の才と言うのだろう。とにかく客に食らいついて離さないことすっぽんの如し。そしてつきまとっていてもウザさを感じさせないのだ。人懐っこさと人の懐に入り込む(だから両者は同じ「懐」という字を当てるのであろうか)技術に長けており、さながら男版のマホといった趣があった(ギャル男ではないが)。
 だがそんな八重樫でさえ舌を巻くほどの逸材が後ほど入ってくるのだが、それはもうしばしのちのことである。
 ある夜いつものように八重樫が客にどこまでも食らいつきながら行くのが見えた。しばらくしてから八重樫だけで戻ってきたのだが、
「マッポだった」などと言って苦笑いを浮かべている。これを聞いてもおれはその意味するところがよくわからなかった。そう、純粋無垢なおれはビラ行為が違法であることを知らなかったのである。
 ビラやティッシュなどを配るだけならセーフだ。厳密に言えばそれも道路交通法違反なのだが、表の飲食店なども含めて道路占有許可をとってビラ配りを行っているところなど皆無であろうし、それで逮捕(パク)られたなんて話は聞いたことがない。
 そうではなく「つきまとい行為」がアウトなのである。ある一定以上の距離をつきまとうのがダメなのだ。その一定以上の距離というのが如何ほどなのかは定かではないし、国の法律なのか北海道や札幌の条例なのかは忘れたがとにかくそういうことになっていた。そして八重樫が今し方果てしなくつきまとっていたのが非番のオマワリだったというわけである。非番だから良かったものの、これが客引き行為取り締まり目的の私服警察だったら八重樫はお縄をかけられていたのであった。
 純粋無垢なおれは今まで違法行為に従事させられていたということを今更ながらに知り愕然としたが、そのうちそれにも慣れた。
 警察もそうであるが、同様に声をかけてはならないのがヤクザと同業者であった。明らかに一般人とは違うからわかると言われていたが、純粋無垢なおれは純粋無垢すぎるがゆえに店に客を入れることへの想いが強すぎて周りが見えていなかった。その二名の同業者になんの疑いもなく声をかけ、店へとご案内した。客が席に通されてしばらくしてからインカム越しに石井の怒りに満ちた声が聞こえてきた。
『おめえこれ同業じゃねえか』それを聞いた瞬間には膝から力が抜けそうになった。やっちまった。あとでツメられる(激しく怒られることを「ツメる」と言った)ことを思ったら憂鬱になった。
『お前は応対しなくていい』と石井に言われたのでおれはその客の接客は一切やらされず、石井が対応していた。なにやら随分と心ないことを言われているようで、おれは心の中で必死に『やめてやって!』と祈っていた。
 その客の帰り際にもなにか石井に対して言っていたので改めてよく見てみると、なるほど一般サラリーマンなら着ないであろうスーツや眼鏡、ヴィトンのバッグ、茶髪、目付きなどは確かにこの業界の人間といった趣で、よくまあおれはこいつに声をかけたもんだと思った。人間、夢中になっていると周りが見えなくなるものである。
 
 なにか粘着質に言っているそいつに対して石井はひたすら平身低頭していた。その日の営業終了後、おれがこっぴどくツメられたのは言うまでもない。
 とまあこんな失敗もあったが、そういったことに気をつければ基本的にビラは楽しいものであった。冬の間はこれは一体なんの苦行かと思ったが、温かくなってくると気楽なものであった。
 だが気楽なのは我々下っ端だけで、ごま団子は静岡代表からかけられる圧によっていつも気が参っている風であった。そういえば何故彼がごま団子と呼ばれているかについて触れていなかったが、これは例のオナベのキツネがつけたもので、坊主頭にしたその頭がごま団子のように見えたのだという極めて端的な理由によるものである。勿論本人に向かってごま団子などとは言えない。仮にも上司である。だがキツネはごま団子に対してタメ口で、ごま団子もそれについてとやかくは言わなかった。快活な少年のようなキツネはどこかなにをしても許してしまえるような雰囲気があり、『絶望先生』でいうマ太郎に近いものがあった。そしてごま団子は基本的にいいヤツだったのでそのような関係が出来上がっていた。おれに対しても営業時間中は敬語を使うように指示していたが、仕事が終わったらタメ語でいいと言っていた。
 元ヤクザの三島の友達で、こんな業界に転がり込んできた手合いである。恐らくはおれの与り知らぬ過去においては記すのもはばかるようなことをしてきたのかも知れない。だがおれと出会ってからのごま団子はそんなことは微塵も感じさせない気の良いニーチャンであった。だからこそビラ隊からの人望も厚く、彼を嫌っていた者はいなかったと思う。
 なのでプライベートにおいてもおれとごま団子とキツネはよくつるんでいた。この三人はヒップホップ好きでファッションもBボーイという点で共通していた。ヒップホップと言っても当時のおれはキングギドラだのケツメイシだのといった国内のものしか知らない素人であった。ごま団子はアメリカのヒップホップも知っていたようだが、おれの車ではおれのMDに入っていたユーロビートの「BOOM BOOM FIRE」を何故かよく好んで聴いていた。
 車や免許を持っていたのはおれだけだったので必然おれのハイラックスサーフで移動することが多かった。黒服には基本的に送迎が付かなかったが、ごま団子は送迎係の好意で送ってもらっていたらしい。それにも漏れてしまったときにはおれが送ってやった。これがすすきのから遠く離れた僻地で、東だったか西だったかは忘れたが札幌の端っこの方だった。そして割と高級そうな住宅街にある、割と高級そうな家だったのが意外だった。実家住まいなのである。その間頻繁にかけていた曲は勿論「BOOM BOOM FIRE」であった。
 朝方に自宅にいると突然キツネから電話がかかってきて迎えに行ったこともあった。キツネは普通の契約携帯電話を持てないのでプリペイドの携帯だったのだが、おれにかけてくるときはいわゆる「ワン切り」であった。プリペイドは電話代が高いのでおれにかけ直させるのである。そうしてかけてみるとこれも遠く離れたところにいて、帰れなくなったから迎えに来て欲しいと言うのである。仕方なしに車を走らせキツネを回収し、戻ってくる途中でキツネは車を降りて吐いた。かなり具合が悪そうで狼狽した。その後どうなったのかはすっかり忘れてしまったが翌日にはケロッとしていたような記憶がある。キツネが何故そんなところにいて帰れなくなったのかはまったく不明であった。
 そしてこのごま団子とキツネに関して割と衝撃的な出来事があったのだが、まあそれは勿体ぶって後に譲ることにしよう(時系列順ではなく思いだしたままに書いている)。
 車と言えば狸部長に石井、ジェシーを乗せて仕事が終わったあとに明け方の札幌を走っていたことがあった。何故そうなったのかは覚えていない。そのときはキックザカンクルーfeat.ライムスターの「神輿ロッカーズ」をかけて大盛り上がりだった。盛り上がりすぎて信号が赤だったのに気付かず普通に通り過ぎてしまい、
「警察いなくて良かった……」と言うと、
「車いなくて良かっただろ!」と誰かにツッコまれた。
 車を持っているとなにかと利用さ……頼りにされて困ったものであった。
 車はすすきのの外れの方にあるスペースに停めていた。マネージャーからは会社の駐車場だと聞かされていたが、実際にはどこぞの工事現場の人たちが使う駐車スペースで、おれたちは夜の間停めて朝には撤収するのでこっそり使ってもバレないという寸法であった。
 さてクオーレで1、2ヶ月も働いていると、あることに気付く。狸部長はじめランクルマンや石井といった古参従業員(古参と言っても当時マリオネット開業から三年ほどであったが)がことあるごとに口にする「元従業員F」のことである。「あいつだけは許せねえ」だの「見つけたら半殺しだよね」だのと特に狸部長が憎々しげに語っていたのでなにをしたかのかと思えば会社の金を数百万円持って逃げたのだという。アホなことをしでかす奴もいたものだ、おれには関係ない話だとこの時は思っていたが、後にこれがおれの車を通してかかわってくることになる。